「夜光怪人(原典版)」（横溝正史） | ラバン船長のブックセイリング

由利先生、獄門島に渡る！

「夜光怪人」（横溝正史）
（「横溝正史少年小説
　　コレクション③夜光怪人」）柏書房

黒木探偵･三津木俊助･
御子柴少年の三人は、
超一級の宝物｢人魚の涙｣を
見張っていた。
正体不明の盗賊･夜光怪人が
それを狙っているという
情報を得たからである。
深夜の展示会場に
怪人が現れたものの、
三人は取り逃してしまい…。

横溝正史の
探偵ジュヴナイル｢夜光怪人｣。
人目を避けるべき盗人が蛍光色を発し、
夜の街を闊歩する。
そんな大胆不敵な怪人の
登場する本作品が、
面白くないはずがありません。

【主要登場人物】
小田切準造
…｢人魚の涙｣を所有する富豪。
黒木一平
…私立探偵。小田切から
　｢人魚の涙｣保護を依頼される。
古宮春彦
…お城御殿の主人の富豪。
古宮珠子
…春彦の娘。｢ダイヤの首飾り｣所有。
一柳博士
…海賊の宝物の研究を行う。
一柳藤子
…一柳博士の娘。
　古宮家を頼り珠子の付き人となる。
　夜光怪人から狙われる。
一柳龍夫
…藤子の弟。
　大江蘭堂に誘拐されている。
大江蘭堂
…一柳博士の発見した宝物を狙う悪人。
首領
…海賊団オリオン組ボス。
鬼頭儀兵衛
…獄門島網元。
清水巡査
…獄門島の駐在。
御子柴進
…探偵小僧。
　夜光怪人に追われる藤子を救出。
三津木俊助…新日報社記者。
由利麟太郎…私立探偵。

本作品の読みどころ①
少女が冒険！少年が活躍！
ジュヴナイルですから当然、
少年少女が活躍します。
少年はもちろん探偵小僧･御子柴進。
本作品でも、三津木俊助とともに
夜の展示会場に張り込んだり、
仮装舞踏会に変装して参加したり、
悪の潜む洞窟へ潜入したりと、
かなり｢大人の領域｣に踏み込んだ
活躍をしています。
やや不自然な印象を拭えませんが、
彼の年齢設定は16歳。
ギリギリセーフでしょう。
活躍が一層面白くなっています。
また少女は藤子が大冒険。
夜光怪人の追跡を
ボートや自動車の運転で
振り切ったかと思えば、
夜光怪人めがけて
猟銃をぶっ放したりもします。
さらには怪人と単独取引を敢行。
こちらも16､17歳の年齢設定であり、
違和感があるのですが、
だからこそ面白いのです。

本作品の読みどころ②
夜光怪人の正体は誰？深まる謎
失神した夜光怪人の正体は○○、
はじめに刺殺された夜光怪人は△△、
続いて殺害された怪人の素顔は□□、
いったい本当の夜光怪人は誰？
二重三重の仕掛けの妙が
横溝らしい味わいです。

本作品の読みどころ③
由利先生、獄門島に渡る！
敵との最終決戦の舞台は龍神島。
そこはあの獄門島のすぐとなり。
渡航するには一度獄門島に渡る
必要があるという設定です。
明らかにファンサービス。
｢獄門島｣事件で
金田一耕助が世話になった
鬼頭儀兵衛や清水巡査が登場し、
由利麟太郎と言葉を交わすのです。

｢獄門島｣の執筆完了が昭和23年、
本作品執筆が翌年24年であり、
｢獄門島｣の人気を
借りたのかもしれません。
それによってそれ以後の横溝作品の
主役を務める金田一と、
この時期に引退する
由利･三津木コンビの、
世界観の交差する
作品ともなっているのです。

ジュヴナイルとはいえ、
読み応えのある長編であり、
横溝ファンは見逃すことのできない
作品であることに間違いありません。
ぜひ、最近刊行された本シリーズ
｢横溝正史少年探偵コレクション｣で
お楽しみください。